これまで関わってきた減災活動でずっと気になっていた防災マニュアル作り。Mさんが紹介してくれた記事はこれまで考えてきた思いとぴったり重なり余りある内容 ! 2024年度の活動に活かせるアドバイスに富んでいます。(h.Yuji)
「いざ」役立つカードに
マニュアル作り
がんばらない減災のすすめ 鈴木 光
前回は、地域やマンションの防災マニュアルをつくる際の心持ちについてご紹介しました。今回は、私たちが取り組む防災マニュアル作りを具体的にご紹介します。
例えば、マンションの防災マニュアルを新しくしたいというご依頼では、「防災担当者も代わるので引き継ぎが難しい」「マニュアルの内容や存在が住民に認「知されていない」という悩みを多く聞きます。また、マニュアルを拝見すると、 多くの場合はしっかりと丁寧に書き込まれているのですが、ページ数が多くなり過ぎて、災害時にまず何をすべきかが分かりづらい、 というのが実感です。
災害時にやることを挙げればキリがありませんが、被災直後にすぐ動ける人はどうしても限られます。実際の災害現場では、優先順位をつけながら「できることをできる人たちでやる」ことしかできないのです。
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ですから、私たちは事前準備としての防災マニュアルをカード化し、思い切ってシンプルにすることで、災害時の活動のハードルを下げたいと考えています。そこで「防災マニュアル」ではなく、「災害時にやることカード」などと呼ぶことにしました。
私たちが実践している「災害時にやることカード」の重要なポイントは二つです。「やることに優先順位をつける」、そして、「誰でもできるようにする」です。
やることの最優先は何と言っても「命に関わること」です。具体的には、安否確認、救助・救出、エレベーターの閉じ込め確認です。極端に言えば、それだけでも良いでしょう。
安否確認では、あらかじ「災害時には、隣人の安否を確認し合おう」と 住民間の共通認識を作っておき、安否を知らせるマグネットカードを各戸 の玄関などに掲示することも効果的。これなら、無事が確認できない部屋だけ、安否確認をすればよくなります。
次に状況に応じて、対策本部を立ち上げる、人手を集める、マンションの被害を目視で点検する、停電・断水に対応する、などとなります。夜に明かりがないと何もできないので、災害時にも使える LED 電灯や懐中電灯などを日ごろから確保しておきましょう。
「誰でもできるようにする」には、思い切ってカードの内容をシンプルにすることが肝要です。災害時に集まる人が訓練されているとは限らず、互いに初対面の人も多いでしょう。
だからと言って、災害時に「何から始めようか」とのんびり話し合ってはいられません。あまりにゼロからだと何から手を付ければよいのか分からず、迷ってばかりで動けません。でも、人命に関わることは、初動が大きな意味を持つことが少なくないのです。
だからこそ、あらかじめ例えば「安否確認」「救助・救出」「建物点検」「明かりの確保」「トイレの一時利用停止」などのように
やること別にカードを作っておきます。災害時には、このカードを集まった人たちに渡し、できる範囲でその役割を担ってもらうのです。自治体の災害対策 本部でも「アクション カード」などとして、効率的な初動のために使われる手法です。
このカードを作る際には、まず、先に決めておいた
優先順位に従って重要度を3段階ぐらいに分けておきます。そして、「やること」ごとに「なぜその行動が必要なのか」「何を使ってやるのか」など、要点を箇条書きにして伝えることがポイントになります。
また、災害時に住民に知らせたいことが一目で分かるように、掲示物を用意しておくことも効果的です。例えば「ごみ置き場使用禁止」という貼り紙です。災害時には道路やごみ処理場が被災したり、人員が不足したりして、ごみ回収が渋滞することがあります。住民がいつも通りにごみを出し続けると、ごみ置き場があふれて衛生上の問題も出てきます。状況が確認できるまで、ごみは家での保管が望ましいのです。
掲示物が用意されていれば、集まった人が誰でも直感的にどこに貼るべきかを理解できるはずです。「トイレ使用禁止」「エレベーター使用停止」もあるとよいでしょう。
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このような作業を通じて災害時にやるべきことを考えることは、そのまま、災害時に何が起きるのかを想像することでもあります。
実はこのプロセスこそがとても貴重で、最高の防災訓練なのです。
防災マニュアルは思い切って簡素化する。「災害時にやることカード」に再編して、災害が起きたら誰でも直感的にすぐ動けるよう にする。「優先順位」は人命第一。
その他のことは「できたらやる」ぐらいの気持ちでもよいのです。分厚く分かりにくいマニュアルよりも、ずっと実践的な方法です。ぜひ、参考にしてみてください。
一般社団法人 減災ラボ 代表理事、博士(工学) 鈴木光(すずき ひかり)
出典: 2023.05.25 朝日新聞「がんばらない減災のすすめ」
https://www.facebook.com/gensai.lab/posts/614454922334083/ |
鈴木光(減災ラボ)プロフィール
updated on September 24, 2023/h.Yuji